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ウクライナの大統領になったコメディアン。ウォロディミル・ゼレンスキーはどのようにして“物語”を支配したか?

ゼレンスキーの一座は「Kvartal 95」と呼ばれ、ウクライナの都市であるクリヴィイ・リハを拠点としていたが、当時はロシア語で公演していた(これは当時としては普通のことだった)。彼は、「ヴォバン」というニックネームでチームのキャプテンを務めた。Kvartal 95がロシアのテレビで人気になると、ゼレンスキーはパートナーのセルゲイとボリス・シェフィルとともに、同じ名前のプロダクションを設立した。彼らの会社は、2006年にゼレンスキー自身が出場し、優勝を果たしたウクライナのダンス番組をはじめ、両国の市場向けに数多くの番組やイベントを制作した。

ウクライナの大統領になったコメディアン。ウォロディミル・ゼレンスキーはどのようにして“物語”を支配したか?

同じ頃、ゼレンスキーは、米国で教育を受けたマリウス・ベイスバーグという映画監督がロシアで手がけていたコメディ番組の製作、共同脚本、そして時には主演を務めるようになった。2009年の『ラブ・イン・ザ・シティ』は、ニューヨークで暮らす3人の友人が、魔法の妖精の呪いによって、真の愛を見つけるまでインポテンツになってしまうというストーリーである(華やかなロシアのポップスター、フィリップ・キルコロフも出演している)。

ゼレンスキーは政治家に転向しても、コメディのキャリアをないがしろにしなかった。彼の最新作である『I、You、He、She』は、彼が大統領に就任したのと同じ月に公開されたのだが、これは間違いなく歴史的な出来事である。驚くべきことに、これまで関わったロシア映画のいくつかで、ゼレンスキーは、現在は彼の死を願っているであろう人々と一緒に仕事をしていた。監督であり『オフィス・ロマンス』の共演者であるサリク・アンドレアシャンとマラト・バシャロフは、ウクライナへの侵攻を公然と支持しているのだ。

ゼレンスキーを真の有名人にした2015年のシットコム『Servant of the People』は、彼の他の作品に比べると、見応えのある作りの作品だ。ウクライナの政治をよくとらえたハートフルな風刺によって、権力の中枢に一般人が入っていってしまう姿を描いている。興味深いのは、ゼレンスキーがロシア語で大統領の役を演じていたことだ。彼は選挙に出るために「Kvartal 95」から手を引いたが、政党名は『Servant of the People』にちなんで命名された。KVNから政治への連続性は非常にスムーズなものだったのだ。