• 記事
  • 五輪より配信だった'21年。音楽はステレオから3Dへ!? 山之内×本田対談【前編】 - AV Watch

五輪より配信だった'21年。音楽はステレオから3Dへ!? 山之内×本田対談【前編】 - AV Watch

コロナ禍で生活への浸透が一層進んだ配信サービス

本田:今年のビジュアルの話題というと、やはりLGエレクトロニクスの新世代パネル「OLED evo」と「配信」でしょう。ネット配信の映像は作品としてもフォーマットとしても高品位になってきました。こうなってくると、商品の選び方が変わってくると思います。

LGの65型4K有機ELテレビ「OLED 65G1PJA」

次世代パネル“LG OLED evo”の最上位4Kテレビ「G1」。壁ピタ設置も

本田:従来は物理メディアが品質面ではナンバーワンでしたが、今後はさまざまな意味でストリーミング配信の映像の方が高い品質を期待できるようになってくる。

それに日本の地デジ放送は特殊ですよね。デジタル化が早かった一方、古いコーデック(MPEG2)で放送されているため、圧縮ノイズが目立つ。それでも、放送規格は簡単に変えられないから、地デジを綺麗に見せるための工夫がこれまでは必要で、それが新興メーカーの参入障壁にもなっていました。

しかし、ここまで配信が一般的になると、普通に素直なパネルで見れば良いと思う消費者は増えるでしょう。配信サービスは圧縮コーデックのアップデートも、解像度のアップデートも、どちらも自分達自身の決断で簡単に行なえてしまいます。

冒頭に戻って、LG OLED evoに関していえば、地デジ画像への対応や厳密な意味での絵作りでは国産機に分がある。しかし、NetflixやAmazon Prime Videoなどの配信では、クライアントのソフトウェアが規定されていることもありますし、パッケージソフトも映像の素性そのものがいいため、パネル自身の良さがストレートに出てきます。

一方でテレビ番組を観る時は、ソニーBRAVIAのスタンダードモードを始め日本メーカーが巧みな見せ方をする。特に液晶の場合はバックライト制御も含めた総合力が求められる。有機ELもevoパネルをソニー、パナソニック、レグザあたりが次期モデルで使い始めるはず。すでに東京五輪も終わったことだし、タイミング的には、来春以降を見据えて待ってもいい時期かもしれない。

ソニーの85型4K液晶テレビ「XRJ-85X95J」

山之内:たしかに、今年後半は配信に面白い動きがいろいろありました。私が注目したのはハイレゾの「Live Extreme(ライブ・エクストリーム)」です。Thumbaなどのプラットフォームを利用し、2021年だけで約20公演を配信しましたが、画質の進化に加えて音質も良くなると没入感がまるで変わるという実例です。

五輪より配信だった'21年。音楽はステレオから3Dへ!? 山之内×本田対談【前編】 - AV Watch

ロンドン交響楽団(LSO)が公演映像をマルチアングルとさまざまな付加コンテンツを揃えて無料で配信したり、ステージ上のブラスバンドを22台のカメラとマイクで収録し、アングルを選ぶとその位置の映像と音が楽しめるという東京芸大の「VR藝大」にも可能性を感じました。

Live Extremeのシステム概略図

コルグ、業界史上最高音質のライブ配信。DSD 5.6MHz/PCM 384kHz対応

本田:ネット配信に伴う技術的なハードルが下がってきたため、アイディア次第でさまざまなトライアルが生まれているのでしょうね。また配信が普及し、安定した契約者がいることで大手配信業者は、大きな予算をコンテンツ制作に割り当てられるようになりました。

例えば、Prime Videoの「ザ・マスクド・シンガー」は9話しかない日本制作の企画なのに、感染対策費用を含めて映画制作費かと思うような予算をかけていた。Netflixの日本原作映画などは三桁億円。いずれも具体的な数字は出せないが、特に「ザ・マスクド・シンガー」のようなテレビ番組に近い作りのものだと、日本の放送局が作る場合に比べると5倍どころか8倍ぐらいのイメージです。

今年9月から、Prime Videoで独占配信開始している「ザ・マスクド・シンガー」。MCは大泉洋、パネリストはMIYAVI、Perfume、水原希子、バカリズムほか(C)2021 Amazon Content Services LLC

山之内:予算面ももちろん重要ですね。2021年は東京五輪もあり、コンテンツとしては例年以上に充実していたわけで、配信と放送でさまざまなコンテンツを横断的に楽しめた年でした。では来年はどうか。これは4Kで観たい、8Kで観たいという方向性が見えてくることを期待したいです。例えば、ステージを8Kの固定カメラでとらえ、そこから高画質で切り出して見るという試みがありましたが、高画質を活かした見せ方にも工夫がほしいと感じています。

本田:安定した収益がある配信業者は、劇場公開の段階でコケて製作費を回収できなければならないという意識があまりない。あまりないというのは言い過ぎだけれど、会員の満足度を上げるために作品の品質を重視し、アーカイブで繰り返し長い間愛される映像を志向しています。Netflix参入当初は黒船だとか言われましたが、結論的には、日本のクリエイターや日本発の原作、アイディアなどにお金が落ちてグローバルで楽しんでもらえている。AVファンとしては、画質、音質共に底上げされることになっているので、とても望ましい方向で動いていると思います。

“巨大LEDを背景に映画撮影”、Netflixの次世代スタジオを見た

Netflix、アニメ制作を支援する新拠点を六本木にオープン

本田:残念なことにコロナの影響で延期されましたが、Prime Videoは年末にボクシングのビッグマッチを生配信する予定でした。テレビ局では放映権を獲得するのが難しいようなイベント中継も、今後は配信中心になっていくのではないでしょうか。

12月29日の開催が予定されていたWBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太と、IBF同級王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)の統一タイトル戦は'22年春へ延期されることになった

本田:それから、ユーザーもネット配信にどんどん慣れてきましたよね。放送を楽しむ受け身のところから、自分の好きなものを探して取りにいくようになっている。すると配信サービスのAIが次々におすすめ映像をリストしてきて、番組編成に左右されず、好きな時間に楽しむのが当たり前になっています。

山之内:内容と品質への対価として、どのぐらいの料金なら払う気になるか? という感覚も少しずつ養われてきています。ライヴでいえば1公演1,500円だとして「これで1,500円は高い」「このクオリティならそれ以上の価値がある」といったさまざまな反応が生まれますが、サブスクも含めて試行錯誤を重ねながら来年以降はもう少し落ち着くところに落ち着く気がしますね。