• ブログ
  • 日本食産業が新型コロナ禍のメキシコで成功するには? コロナ禍によるメキシコ人の食生活の変化が販売戦略のヒント

日本食産業が新型コロナ禍のメキシコで成功するには? コロナ禍によるメキシコ人の食生活の変化が販売戦略のヒント

メキシコにおける新型コロナウイルス禍は、メキシコ人の食生活を大きく変化させた。それは、同国の日本食関連業界にも対応を迫るものだった。その変化をうまく生かすことで販路拡大につなげることも可能だろう。メキシコの日本食市場と、コロナ禍の食文化の変化を概説する。

開拓余地が多分にある日本食市場

メキシコ全土に日本食店は2020年9月現在、約1,000店舗が存在し、そのうち約100店舗が本格的な日本食を提供していると言われている。首都メキシコ市に約500店舗、人口第3位のハリスコ州グアダラハラ都市圏に約200店舗、同2位のヌエボレオン州モンテレイ都市圏と、自動車産業関連の日系企業が集積する中央高原(バヒオ地域)に約100店舗ずつ、それら以外の地域で約100店舗となっている。メキシコ市は、人口が921万人(総人口の7.3%、2020年国勢調査)と絶対数が多いことや、中間所得層以上も多いことなどから、全体の日本食店の50%が集中している。グアダラハラ都市圏とモンテレイ都市圏の人口は、それぞれ527万人と534万人とほぼ均衡しているが、グアダラハラ市の方が2倍の日本食店を有する。その要因として、グアダラハラ市が存在するハリスコ州に日本食材の輸入・卸・小売りまでを一気通貫で行っているコメルシアル・トヨ(Comercial Toyo)の本社があり、同州を中心に食材の配給網を巡らせていることが挙げられる。グアダラハラ都市圏では、メキシコ風にアレンジしたロールすし店の数は、ピザ店よりも多いとのことだ。

一方、モンテレイ都市圏はメキシコを代表するスーパーマーケットチェーンのソリアーナ(Soriana)や、コカ・コーラのボトリング企業として米州最大のフェムサ(FEMSA)のような巨大会社の本社が集まっているという好条件がありながら、日本食材を扱うプレーヤーの少なさにより、日本食市場の開拓は進んでいない。モンテレイ市が存在するヌエボレオン州はメキシコと米国の国境州で、同地の企業は米国との結びつきが歴史的に強く、ビジネスパーソンはロサンゼルスやニューヨーク、シカゴといった大都会に度々出張し、そこで本格的な日本食に触れる機会が多かった。しかし、2020年3月からメキシコでも新型コロナウイルス感染が拡大し、米国との自由な往来ができなくなったことで、メキシコ国内(特にモンテレイ市)で本格的な日本食が外食と中食の両面で求められるようになってきている。2021年のメキシコにおける日本食市場の開拓余地は特にモンテレイ市にあると考えられる。

ファストフードチェーンの単品物価は日本の半額

ジェトロがメキシコ市内の小売店で物価調査を行ったところ、マクドナルドのビッグマック単品は45ペソ(約225円、1ペソ=約5円)、スターバックスコーヒーのトールサイズは32ペソと、日本の販売価格の約半額だった(表参照)

日本食産業が新型コロナ禍のメキシコで成功するには?
コロナ禍によるメキシコ人の食生活の変化が販売戦略のヒント

表:メキシコ市の小売物価
品目価格備考
ペソ
ハンバーガー45225ビッグマック、単品(McDonald's)
コーヒー32160本日のコーヒー(アメリカン)トールサイズ、1杯(Starbucks coffee)
ビール32160Budweiser、1本(Soriana店舗)
30150国内養鶏場で産卵されたもの、1ダース(Soriana店舗)
しょうゆ128640ヤマサ(日本産)、1リットル(Toyo Foods店舗)
日本酒173865大関(米国産)、720ミリリットル(City Market店舗)
みそ134670マルコメ(米国産)、900グラム(Toyo Foods店舗)
牛肉170850メキシコ産、1キログラム(Soriana店舗)
51255カリフォルニア米(錦)、1キログラム(Soriana店舗)
即席麺1260Maruchanカップラーメン(米国産)、1個(Soriana店舗)

注:1ペソ=約5円。出所:ジェトロ調べ

また、その他の食材・食品では、メキシコ国内で調達されているものや、隣国の米国から輸入されているものは安価に入手可能だ。一般的に、日本から輸入される食品がメキシコで小売り販売される場合、輸送費や通関コストの関係で、日本の小売価格の約2.5倍となる。そのため、在米進出日系食品企業が米国内で生産している日本食材の方がメキシコ人にとって購入しやすい。ただし、米国内生産品のバリエーションは限られているため、ほとんどの食材は日本から輸入しなければ調達できない。

コロナ禍で増える中食需要

メキシコでは、タコスやトルタ(メキシコ風サンドイッチ)といった軽食を路上の屋台で購入し、その場で食べる文化が根付いている。一方、日本のようにスーパーマーケットに総菜コーナーが充実していないことなどもあり、自宅に持ち帰って食べる文化はあまり根付いていなかった。メキシコの調査会社マルカウェイズが1万人のメキシコ人にアンケートをした調査(2020年6月実施、8月結果発表)によると、「新型コロナ感染拡大前は、1カ月に何回外食をしていたか」という質問に対して、1~3回が53%、3~5回が20%、5~7回が9%と、8割以上が外食をしていた(図1参照)。

しかし、感染拡大が深刻化し、2020年4月からメキシコ国内の大部分で飲食店の営業が完全または一部停止となり、人々の食事に対する傾向は変化した。「食事をしたいと思う場所はどこか」という質問に、71%が自宅と回答した。ファストフード店は17%、レストランは6%だった。また、路上屋台もわずか6%だった(図2参照)。2020年6月時点で中食(自炊を含む)のニーズが非常に高まっている状況が分かった。

他方、中食のために持ち帰りをする場合、どのような料理が選ばれているのだろうか。マルカウェイズのアンケート調査によると、メキシコ料理が66%、イタリア料理と中華料理が11%、日本食が7%、ファストフードが5%だった。アンケートはオンライン回答のため、回答者の所在地は不明だが、インターネットの普及率は都市部が圧倒的に高いことから、都市部のメキシコ人を中心に、日本食が好まれていると見ることができる(図3参照)。

成功の秘訣は現地融合とデジタル発信力

日本の食品企業がメキシコの市場で成功するための秘訣(ひけつ)や最も重要なことは、現地に信頼できるパートナーを見つけることだ。日本産食材を輸入するメキシコ現地企業は数が限られる。前述のコメルシアル・トヨに加え、メキシコ市を拠点として日本や米国からの輸入網を持つJFC de México(キッコーマンの100%出資会社)、日系人飲食店やスーパーへのコネクションが強いクメ・インポルタシオネス(Kume Importaciones)などが挙げられる。

次に、ターゲットを在留邦人や日系人に絞らず、メキシコ人とすることだ。メキシコの総人口は1億2,600万人と、日本の人口とほぼ変わらないが、メキシコの在留邦人と日系人を合計しても3万2,000人程度とボリュームは小さい。そのため、メキシコ人の好みに合わせた日本「風」のフュージョン(融合)料理が次々に開発されているが、それを否定せずに食文化として受け入れ、食材として利用してもらえるように提案をすべきだ。

他方、メキシコ人の中では、「日本食=健康」というイメージが既についていることから、健康意識の高い高所得層には日本ブランドを打ち出した販売戦略が効果的だ。そのためには、SNSの活用が重要となる。メキシコオンライン販売協会(AMVO)によると、2020年末時点の携帯電話の契約数は1億2,600万回線となり、メキシコの人口と同数となった(注)。また、SNSアカウント保有者は約8,000万人に上り、3人に2人がSNSを利用していることが分かる。そのため、中・高所得層をターゲットとした場合は、テレビやラジオといった従前のメディアよりも、SNSのアルゴリズムを活用してアカウント保有者に適切な広告を表示させるデジタルマーケティングが進んでいる。コロナ禍となった2020年からこの傾向がより鮮明になったことから、マーケティングのデジタル化は今後も新常態(ニューノーマル)として続いていくことが予想される。