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夜の無人島で光と闇を楽しむアート|青野尚子の今週末見るべきアート

2019年に第一回が開かれた『Sense Island』が帰ってきました。普段は味わえない闇と光が出合うアート散歩が東京湾に浮かぶ無人島で楽しめます。横須賀の沖合に浮かぶ猿島は、東京湾では最大の無人島。国を守る要所として、幕末から明治にかけて台場や砲台施設が築かれた。今も島には当時の西洋式の技術を取り入れたれんが造りの遺構が残り、明治時代に建てられた発電所の建物は現役で使われている。

『Sense Island 感覚の島』は夜の島に上陸し、携帯電話やスマホを封印して暗闇の中を散策するアート・イベントだ。観客は自らの感覚を研ぎ澄まして猿島の自然や光のアートと向かい合う。プロデューサーはアブストラクトエンジンの齋藤精一。彼を含め、14組のアーティスト・パフォーマンスアーティストが参加している。

猿島行きのフェリーは通常、冬期は15:30三笠桟橋発が最終だが、「Sense Island 感覚の島」の開催日は特別に16:50から18:15まで3便のフェリーが出る。鑑賞するには往復の乗船料・入島料・観覧料を含んだチケットを事前に購入する形になる。猿島に着いたら受付で携帯電話やスマホを封筒に入れ、封をする。闇の散策の始まりだ。島ではあちこちで後藤映則の《飾音/Kazarioto》が出迎える。竹の枝を使ったオブジェは風が吹くと音を立てる。竹の枝はこの島に由来するあるものの形をしている。かつて、猿島には春日神社があった。そこに備える飾りを想定し、古来から神聖な植物とされてきた竹による飾りを作ったのだという。

夜の無人島で光と闇を楽しむアート|青野尚子の今週末見るべきアート

道を進んで行くとれんがでできた小部屋のようなところに人や船の形をしたネオンサインが輝いている。ここはかつて弾薬庫などとして使われたところだ。そこに中﨑透がれんがのイメージをモチーフにした作品を設置した。赤や青の光が満ちて、空間の様相を変える。

長さ約90メートル、「愛のトンネル」の名で親しまれるれんがのトンネルでは毛利悠子の《I Can't Hear You》という作品が体験できる。このフレーズは禅僧・鈴木大拙が国際電話がうまく通じなくて発した言葉だという。この言葉はトンネルの両端にあるスピーカーからタイミングをずらして流され、ある一点でフォーカスする。ときに平和主義を主張することもあれば、戦争を容認する発言も行うというように鈴木の言質は揺れていた、と仏教学者の末木文美士は指摘する。その揺れを体感させる作品だ。

最終更新:Casa BRUTUS.com