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がん治療のセカンドオピニオン、オンライン化で劇的に便利に(2022年2月28日)|BIGLOBEニュース

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 がんの治療は、たいてい突然始まる。患者はがんと診断されてから、ものすごいスピードで体の一部を取るような外科手術や抗がん剤治療などの決断、覚悟をし、長期戦では治療法や方針について選択しなければならないこともある。それが現時点で最も効果が期待でき、安全性も確立した「標準治療」であっても、自分に合っているのか、治療で感じる苦痛は当たり前なのかなど不安になる患者、家族などの身近な人は多い。主治医を信頼していても診断や治療選択がこれでいいのか、他の医師に聞いてみたいと思った時に利用できるのがセカンドオピニオンだ。

 セカンドオピニオンは現在の主治医のもとで治療を続けることを前提に、違う医療機関の医師に「第2の意見」を求めることだ。保険適用外の自費負担で受けることができ、専門医がこれまでの検査や診断、治療の経過を踏まえて、現在の治療や選択について意見を述べ、相談に乗ってくれる。

 国立がん研究センター中央病院では、新型コロナウイルス感染症の終息が見込めない中で2021年2月15日よりセカンドオピニオンのオンライン提供を希少がん等に限定しつつ開始した。実際にどのように行われているのか、そのメリットなどについて呼吸器内科外来医長の後藤悌医師に聞いた。

——オンライン・セカンドオピニオンが導入されて約1年になりますが、どのような人がオンラインを利用しているのでしょうか。

後藤悌医師(以下、後藤) 2021年11月末までの約半年間でオンラインによるセカンドオピニオンは166件ありました(セカンドオピニオン全体では2740件)。受けられた方へのアンケートでは、新型コロナウイルス感染症への心配から東京に来たくないというより、純粋に遠方におられる方達が来院するのが大変だからという理由が多く、首都圏近郊の方はこれまでどおり対面でのセカンドオピニオンを受けられる方がほとんどです。現在のところ、オンラインでは原則として希少がんに限定しているため当院全体の数とは純粋な比較にはなりませんが、従来通りの対面の方が多いのが現状です。

——もともと国立がん研究センター中央病院では、どのような患者さんがセカンドオピニオンを受けられるのでしょうか。

後藤 全般的には患者さんご自身が現在受けている治療以外のものがないか探す時、治療方針が変更になる時の確認や選択肢の検討、これまでの治療の確認をしたい方もおられますし、今後の見通しを主治医とは違う視点で専門家から教えてほしいという方もいます。当院のセカンドオピニオンでは1時間用意していて、そもそもがん治療とは何か、あなたのがんはどういうものか、今後はどういうことが予想されるのか、治療にはどんな方法があるかといった一般論をじっくりとお話しすることが多いですね。また、地方で治療を受けている患者さんの家族が「東京の大きな病院では他の治療があるのか」と、セカンドオピニオンを求めて来られることも多くあります。

 通常の診察ではそこまで時間をとってお話しすることが難しいため、病気や治療についてじっくり聞きたいというニーズがあり、患者さんや家族など関係者の納得感や満足度がアップするのなら機会は多いほどいいでしょうから、私は積極的にセカンドオピニオンを利用してもらいたいと考えています。実際、治療法が変わる度に、何度もセカンドオピニオンを受けに来られる患者さんもおられます。

——セカンドオピニオンを受けて治療法を変えたりすることは、よくあるのでしょうか。

後藤 具体的な治療に介入することはありません。ただ、希少がんの患者さんは治療を受けている中で主治医に「治療についてセカンドオピニオンを受けてきて下さい」と依頼されることがあるので、助言等をすることはあります。希少がんは人口10万人あたり6例未満というめったにないがんで、その種類は200近くあり治療は難渋することが多いからです。当院の希少がんセンターでは多くの知見を蓄積しておりますので、コロナ禍でもセカンドオピニオンを止めることがないよう、オンラインで提供する必要があると考えました。

——オンライン・セカンドオピニオンは、どのようにして進められるのでしょうか。

後藤 当院では「Findme(ファインドミー)」というオンライン診察システムサービスを使い、患者さんはパソコンやスマホ、タブレットで受けることができます。コロナ禍で増えてきた一般のオンライン診察は、テレビ電話機能を使った1対1のやり取りが多いようですが、「Findme」では離れたところに住む家族なども参加できるように3チャンネル用意してあります。

 また、がんのセカンドオピニオンでは欠かせない画像やデータの供覧ができます。Zoomでミーティングや画面共有をする感じですね。医師が手書きのメモを入れたりすることもできて、なるべく対面のセカンドオピニオンに近くなるように共同開発した独自の診察システムです。

 オンラインであれば遠方に住む患者さんが交通費や体力の負担をかけずに済みますし、離れた土地に暮らすご家族が移動しなくても、一緒にセカンドオピニオンを聞くことが可能になります。入院中の患者さんが使うこともできますし、主治医も同席して病状を説明したり、専門的な質問に私達が答えることもできます。

 ただ、病院内でオンライン・セカンドオピニオンを受けようとすると場所の確保が難しいようですね。主治医と一緒に受けられたある患者さんは会議室を都合してもらったそうですが、プライバシーが確保できる場所を病院内で用意することはなかなか難しいようです。

 私は希少がんなど治療に関する情報が少ない場合に、医療者同士で情報交換をする機会にもなればとも思うのですが、患者さんの同意や誰が費用を負担するのかといった運用の部分が難しいですね。ただ、システムとしてはいつでもできるようになっています。

——コロナ禍で患者さんの家族や関係者が離れて暮らしていると、移動で感染させたらどうしようと不安な方も多いでしょうから、オンラインで同席できるのはいいですね。

後藤 私達もそう思っていたのですが、実際には患者さんのところに集まって、その場で一緒に聞く人たちがほとんどで多チャンネルを使う方が少ないのが意外でした。やはり傍にいるほうがお互いに安心ですし、事後にこれからのことを話し合ったりされるのでしょうね。

がん治療のセカンドオピニオン、オンライン化で劇的に便利に(2022年2月28日)|BIGLOBEニュース

——国立がん研究センターから遠い地域に住む患者さんたちには、大いにメリットがあると考えられますね。仮にコロナ禍が終息しても続いていくでしょうか。

後藤 続けることになるでしょう。がんも含め多くの病気ではオンライン診療に難点がありますが、セカンドオピニオンでは患者さんはすでに診断され治療中ですから、オンラインによる難しさのハードルは低いです。遠くから来院される負担が大きいという方々にとってはセカンドオピニオンを受けやすくなるでしょう。利用した方へのアンケートでは、オンラインが開設されたから相談したと回答した方もおられます。

——医師としてデメリットを感じられることはありますか。

後藤 お互いの機微が伝わらない点でしょうか。普段、セカンドオピニオンでも医師は患者さんが診察室に入ってくる時から歩くスピードや姿勢などを見て、どのくらい元気があるのかなどを観察しています。それが画面越しだと座っている姿しか見えませんし、がんばって1時間座っているのか、日常的に大丈夫なのかというような細かいところがわかりにくいのですね。

 また、バッドストーリーをお話することも多くて、その際にコミュニケーションがうまくとれるかどうかという危惧は開設前からあり、希少がんに限定しているという経緯もあります。オンラインに限らず病気の進行が非常に速い場合などはセカンドオピニオンを待つことで治療が遅れることもあり、大きなデメリットになることがあります。

——アンケートで患者さんから対面のほうがよかったという声はありますか。

後藤 4%の方が対面の方がよかったと回答されていますが、それはシステムがうまく使えなかったというのが理由でした。通信環境などシステム会社もこちらもよく確認するのですが、なぜか当日つながらなくて電話に切り替えたり、音声のみになったことがありました。

——がん以外でセカンドオピニオンが必要になるというシーンはあまりないですよね。

後藤 確かに感染症の治療でセカンドオピニオンを、とはならないでしょう。治療の選択肢があるということは少ないですし、患者さんがそれを決めるということもあまりありません。アメリカではスポーツ選手がケガをしたら、まずセカンドオピニオンを受けるそうで、治療法を選ぶ時間の猶予があって、メリットとデメリットをよく考える必要がある時などは複数の専門家に話を聞くことはあるでしょうが、がんの治療では特に頻繁に出てきますね。

——患者本人だけでなく、家族など身近な人がセカンドオピニオンを勧めたり、受けたいと考えることも多いですよね。

後藤 患者さんやご家族が「東京にあるがん専門の病院のほうが正しい判断ができるのでは」と考えてセカンドオピニオンを望まれることもあります。確かに希少がんなど限られた分野ではそのようなこともありますが、患者さんの価値観や家族構成、社会的な立場など長く診てきた主治医がいちばんよく把握していて、その上で治療の判断をされていることがほとんどです。

 そういった背景をセカンドオピニオンの1時間で把握し理解して回答するのは困難ですから、私達が必ずしも目の前の人によりよい提案ができるとは限らないのです。

 患者本人でなくてもセカンドオピニオンは受けられますので、ご家族の納得感や満足度を高めることもできます。セカンドオピニオンは患者さんの不安を解消して治療への満足度を上げる、理解を助けて治療選択を納得してもらうことがとても大切です。その中で主治医の先生に伝えるべき事があれば、必ず書面で返信をします。

——主治医とじっくり話ができないことで、病気や治療に対する理解や納得が十分ではないことも多いですね。

後藤 多いです。裏返すと、日頃の診療にそういう時間を取れないことが問題で、医師の多忙さに加えて診療報酬体系の問題があります。当院ではセカンドオピニオンの相談料として4万4000円(オンラインではシステム利用料を加えて4万9940円)を設定していますが、病院としては1時間の説明に人を割くとなればこれくらいの費用が必要になります。

 通常の外来診療でも十分な説明が必要な際に同じくらいの診療報酬があれば、たっぷりと時間をとって患者さんや家族とじっくり話すことがやりやすくなるのではないでしょうか。内科系学会社会保険連合、中央社会保険医療協議会に患者さんへの説明について費用を加算してほしいと要望しているようですが、十分には実現していません。

 じっくりと説明を聞くことができないからと何度もセカンドオピニオンを受ける患者さんもよくおられるので、2回目以降はディスカウントしたほうがいいんじゃないかという意見もあるくらいです。

——セカンドオピニオンで別の治療法が特になかったとしても、病気や治療について患者やその関係者が納得でき、今の主治医と一緒にこれからを考える関係性を作ることもできるでしょうね。

後藤 セカンドオピニオンにはそういう役割もあります。あなたの主治医の方針で間違いありませんよと念を押すこともあれば、どうしても厳しい見通しである事を念押しすることもあり、それも大事な仕事です。

 いま診てもらっている地元の病院がベストを尽くしてくれて、でも治すための治療はもうなくなってしまったという時に、このがんはこういうもので、これからは具合が悪くなって亡くなりゆくのだということをセカンドオピニオンで伝えることで、もちろん落ち込んで帰っていかれるのですが、事実として受け止められることもある。セカンドオピニオンでも同じ結果だったということで、主治医を恨むことなく関係を再構築できることもあります。患者さんの今後のために、私達がダーティな役回りを引き受けることもセカンドオピニオンの大切な役割だと考えています。

 ただ、先に申し上げたようにオンラインでそのデリケートな機微が伝えられるかどうかは、難しさがあるだろうなと思いますね。

【関連サイト】国立がん研究センター中央病院 オンライン・セカンドオピニオンhttps://www.ncc.go.jp/jp/ncch/d001/secondopinion/online_secondopinion/index.html

国立がん研究センターがん情報サービス「セカンドオピニオンとは」https://ganjoho.jp/public/dia_tre/dia_tre_diagnosis/second_opinion.html

筆者:坂元 希美